東京高等裁判所 昭和27年(う)3131号 判決
〔抄 録〕
一、論旨第一点について。
刑事訴訟法第三百二十一条第四項に「鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したもの」というのは同法第百六十五条以下に規定された鑑定人の作成した書面に限られることなく、搜査機関の嘱託による鑑定書や医師の診断書等実質的に鑑定書たる性質のもの一切に適用されるものと解するのを相当とする。而して所論の甲第一号証証明書というのは飯島静治郎が梶川きくの診療に当つた際その知識、技能、経験に基づいて梶川きくの受けた傷の部位程度、性質等について認識し得た具体的事実を記載したものに外ならないから実質的には鑑定書に属するものというべきであり、従つて刑事訴訟法第三百二十一条第四項に則つて右飯島静治郎が公判廷に於て尋問を受け右証明書の真正に作成されたものであることを供述したときにはこれを証拠とすることができるわけであつて、飯島静治郎が鑑定人として宣誓した者でないとの理由で右証明書の証拠能力を否定するのは当らない。それ故原審が飯島静治郎を証人として尋問した際検察官が同証人に甲第一号証を示したところ(所論は裁判官が甲第一号証を示したように主張するがこれは誤である)同証人はその通りであると答えたことが認められるから、右甲第一号証を以つて証拠能力あるものとした原審の処置には違法の点は存しない。しかも原審は右飯島証人の証言を判決に証拠として引用しているが、その証言中に所論の如き供述があつたからといつて、それは同証人に対し甲第一号証の真正に作成されたことについて供述を求めただけであるから、これによつて甲第一号証が証人の証言の一部をなしているとは認められず、況んや甲第一号証を証拠として判決に引用したわけでもないから、所論の如き採証の法則を誤つたとの違法の点は何処にもないのであり、所論は理由がない。
二、同第三点について。
原審に於て昭和二十七年三月二十八日証人飯島静治郎を尋問するに際し適法に宣誓を為さしめる手続が行われたことは同証人の供述調書の末尾に綴つてある証人の宣誓書の存することにより明白であり、又同年六月二十七日の証人飯島静治郎尋問の際には前回の宣誓の効力を維持した上で尋問していることは同証人の第二回供述調書の記載により明白である。もつとも右証人供述調書には尋問前に偽証の罰を告げて宣誓を為さしめた旨の記載がないことは所論のとおりであるが、昭和二十七年二月一日より施行された昭和二十六年最高裁判所規則第十五号により改正された刑事訴訟法規則第四十四条は公判調書の記載要件として改正前の同条が、「証人……の尋問及び供述並びに証人が宣誓しないときはその事由」その他一切の訴訟手続を記載すべものと規定されていたのを改め「その他一切の訴訟手続」については公判調書の記載要件としていないのをみれば、宣誓書を編綴してあることにより適法な宣誓が行われたことが推定される限り、尋問前に僞証の罰を告げて宣誓を為さしめたことを調書に記載しなくてもよいこととなつたわけである。従つて公判調書に右のような記載がないことから逆に適法な宣誓がなかつたものとはいえないし、延いて宣誓せしめない証人の供述を記載した供述調書であつて無効というような主張は理由がないのである。論旨は故に失当である。